歴史と伝統息づく軽井沢の魅力をご紹介!
2013年3月13日
大正・昭和の始めから数多くの文士たちに愛された軽井沢は、作品の背景としてさまざまな文学に登場してきました。霧深いエキゾチックな避暑地は、その非日常性や美しい自然風景から、人間の心情を描き出すにはこの上ないステージだったのでしょう。それはトリックを駆使し、ロジックを積み上げる推理小説の世界でも例外ではありません。古今東西、本格と謳われる大家の作品から誰もに親しまれるライトノベルまで、ミステリー小説の中からも多種多様な軽井沢を覗くことができます。
人気作家を魅了する場所
軽井沢に居を構え、自身も「軽井沢のセンセ」として作中に登場する内田康夫は、〝軽井沢ミステリー〞の代表的作家といえるでしょう。名探偵・浅見光彦は昭和57(1982)年の初登場以来100作品以上、全国津々浦々で難事件を解決し、塩沢湖そばにファンクラブハウスも建てられています。彼が軽井沢で謎解きをしたのは、意外にも「軽井沢殺人事件」の1冊のみですが、これは同じ著者による別シリーズの名探偵、信濃のコロンボ・竹村岩男警部との対決が見られる貴重な作品。作中では、旧軽銀座の街並みや離山の意外な表情なども鮮やかに描かれ、物語の中核を築いています。竹村警部は「追分殺人事件」でも、軽井沢と東京の事件を追って活躍。ここでは歴史を語る宿場町の風情が、追分節の哀切な曲調をともないながら、丁寧に描かれました。 江戸川乱歩賞作家の斉藤栄も、軽井沢をこよなく愛するひとりです。タロット日美子シリーズ「日美子の軽井沢幽霊邸の謎」では、霧の渦巻く中軽井沢の豪邸を舞台に、二階堂日美子のカードリーディングによる謎解きが鮮やかに展開。「新幹線軽井沢駅の殺人」「軽井沢愛の推理日記」など、万平ホテルや旧三笠ホテルを背景に散りばめつつ、その時どきの時世を絡めた作品は、読者を常に惹きつけています。 探偵たちが集まるわけ 名探偵・水乃サトルの初登場作品となった二階堂黎人の「軽井沢マジック」、嵯峨島昭の長編ロマンミステリー「軽井沢夫人」、吉村達也による氷室想介シリーズ「旧軽井沢R邸の殺人」も、軽井沢の別荘を舞台に、本格的な謎解きを堪能できる作品です。新幹線開通前の軽井沢駅の雰囲気や、旧軽井沢、千ケ滝といった別荘地の描写も、現在の風景と比べながら楽しめます。 有栖川有栖作「46番目の密室」は、推理作家・有栖川有栖と〝臨床犯罪学者〞火村英生の人気コンビが、著名な推理作家の別荘で密室トリックを解き明かすストーリー。また、トラベルミステリーの巨匠・西村京太郎が綴る「ヨコカル11.2キロの殺意」は、旧信越本線の横川ー軽井沢間が事件現場で、今はなき車窓の描写に旅情もくすぐられます。 一風変わったところでは、北村薫が「街の灯」「玻璃の天」「鷺と雪」と続くシリーズで、戦前の上流階級を描き、女性運転手のベッキ―さんという魅力的な探偵役を生みだしています。彼女はどちらかというと謎解きのヒントを与える指南役。最終的に謎を解明するのは語り手の令嬢・英子で、不可思議な謎と共に、時代の空気を生き生きと伝えてくれます。英子が夏を過ごす軽井沢の風景も、旧士族の子女という新しい視点を得て、いっそう興味深く伺える作品です。 小池真理子の「恋」、宮本輝の「避暑地の猫」などは、殺人事件を扱いながら、ミステリーというより心理サスペンスといえるでしょうか。現在軽井沢に暮らす小池氏の筆は、透き通るような自然描写を折り込み、男女の愛憎を描き出していきます。 ホームズも生まれたミステリーの聖地 ここで紹介したどの作品でも、落葉松並木や浅間の山容は、変わらぬ佇まいで人びとの紆余曲折を眺めています。それらが、おそらく舞台装置としての軽井沢の魅力であり、作者にこの地を描かせる理由のひとつなのでしょう。 ちなみに旧北国街道沿い、追分公園の中には名探偵の代表格シャーロック・ホームズの銅像が建っています。これは新潮文庫「シャーロック・ホームズ全集」の翻訳者・延原謙が、油屋旅館などを仕事場として、コナン・ドイルの60篇を完訳させたことにちなんだもの。追分の宿の一室、翻訳家は浅間おろしの風の音を聞きながら、遠い異国の難事件を綴り、パイプをくわえた名探偵の推理に快哉を叫んだのかもしれません。 参考) 内田 康夫/「軽井沢殺人事件」カドカワノベルズ・「追分殺人事件」角川文庫 斉藤 栄/「日美子の軽井沢幽霊邸の謎」中公文庫・「軽井沢愛の推理日記」G books「新幹線軽井沢駅の殺人」ジョイ・ノベルス 二階堂黎人/「軽井沢マジック」徳間文庫 嵯峨島 昭/「軽井沢夫人」光文社文庫 吉村 達也/「旧軽井沢R邸の殺人」光文社文庫 有栖川有栖/「46番目の密室」講談社ノベルス 西村京太郎/「ヨコカル11.2キロの殺意」(『特急「にちりん」の殺意』内)光文社文庫 北村 薫/「街の灯」文藝春秋・「玻璃の天」文藝春秋「鷺と雪」文藝春秋(第141回直木賞受賞作品) 小池真理子/「恋」早川書房(第114回直木賞受賞作品) 宮本 輝/「避暑地の猫」講談社文庫 コナン・ドイル[延原謙 訳]/「シャーロック・ホームズ全集」月曜書房(のち新潮文庫)
※文中敬称略
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大正・昭和の始めから数多くの文士たちに愛された軽井沢は、作品の背景としてさまざまな文学に登場してきました。霧深いエキゾチックな避暑地は、その非日常性や美しい自然風景から、人間の心情を描き出すにはこの上ないステージだったのでしょう。それはトリックを駆使し、ロジックを積み上げる推理小説の世界でも例外ではありません。古今東西、本格と謳われる大家の作品から誰もに親しまれるライトノベルまで、ミステリー小説の中からも多種多様な軽井沢を覗くことができます。
人気作家を魅了する場所
軽井沢に居を構え、自身も「軽井沢のセンセ」として作中に登場する内田康夫は、〝軽井沢ミステリー〞の代表的作家といえるでしょう。名探偵・浅見光彦は昭和57(1982)年の初登場以来100作品以上、全国津々浦々で難事件を解決し、塩沢湖そばにファンクラブハウスも建てられています。彼が軽井沢で謎解きをしたのは、意外にも「軽井沢殺人事件」の1冊のみですが、これは同じ著者による別シリーズの名探偵、信濃のコロンボ・竹村岩男警部との対決が見られる貴重な作品。作中では、旧軽銀座の街並みや離山の意外な表情なども鮮やかに描かれ、物語の中核を築いています。竹村警部は「追分殺人事件」でも、軽井沢と東京の事件を追って活躍。ここでは歴史を語る宿場町の風情が、追分節の哀切な曲調をともないながら、丁寧に描かれました。
江戸川乱歩賞作家の斉藤栄も、軽井沢をこよなく愛するひとりです。タロット日美子シリーズ「日美子の軽井沢幽霊邸の謎」では、霧の渦巻く中軽井沢の豪邸を舞台に、二階堂日美子のカードリーディングによる謎解きが鮮やかに展開。「新幹線軽井沢駅の殺人」「軽井沢愛の推理日記」など、万平ホテルや旧三笠ホテルを背景に散りばめつつ、その時どきの時世を絡めた作品は、読者を常に惹きつけています。
探偵たちが集まるわけ
名探偵・水乃サトルの初登場作品となった二階堂黎人の「軽井沢マジック」、嵯峨島昭の長編ロマンミステリー「軽井沢夫人」、吉村達也による氷室想介シリーズ「旧軽井沢R邸の殺人」も、軽井沢の別荘を舞台に、本格的な謎解きを堪能できる作品です。新幹線開通前の軽井沢駅の雰囲気や、旧軽井沢、千ケ滝といった別荘地の描写も、現在の風景と比べながら楽しめます。
有栖川有栖作「46番目の密室」は、推理作家・有栖川有栖と〝臨床犯罪学者〞火村英生の人気コンビが、著名な推理作家の別荘で密室トリックを解き明かすストーリー。また、トラベルミステリーの巨匠・西村京太郎が綴る「ヨコカル11.2キロの殺意」は、旧信越本線の横川ー軽井沢間が事件現場で、今はなき車窓の描写に旅情もくすぐられます。
一風変わったところでは、北村薫が「街の灯」「玻璃の天」「鷺と雪」と続くシリーズで、戦前の上流階級を描き、女性運転手のベッキ―さんという魅力的な探偵役を生みだしています。彼女はどちらかというと謎解きのヒントを与える指南役。最終的に謎を解明するのは語り手の令嬢・英子で、不可思議な謎と共に、時代の空気を生き生きと伝えてくれます。英子が夏を過ごす軽井沢の風景も、旧士族の子女という新しい視点を得て、いっそう興味深く伺える作品です。
小池真理子の「恋」、宮本輝の「避暑地の猫」などは、殺人事件を扱いながら、ミステリーというより心理サスペンスといえるでしょうか。現在軽井沢に暮らす小池氏の筆は、透き通るような自然描写を折り込み、男女の愛憎を描き出していきます。
ホームズも生まれたミステリーの聖地
ここで紹介したどの作品でも、落葉松並木や浅間の山容は、変わらぬ佇まいで人びとの紆余曲折を眺めています。それらが、おそらく舞台装置としての軽井沢の魅力であり、作者にこの地を描かせる理由のひとつなのでしょう。
ちなみに旧北国街道沿い、追分公園の中には名探偵の代表格シャーロック・ホームズの銅像が建っています。これは新潮文庫「シャーロック・ホームズ全集」の翻訳者・延原謙が、油屋旅館などを仕事場として、コナン・ドイルの60篇を完訳させたことにちなんだもの。追分の宿の一室、翻訳家は浅間おろしの風の音を聞きながら、遠い異国の難事件を綴り、パイプをくわえた名探偵の推理に快哉を叫んだのかもしれません。
参考)
内田 康夫/「軽井沢殺人事件」カドカワノベルズ・「追分殺人事件」角川文庫
斉藤 栄/「日美子の軽井沢幽霊邸の謎」中公文庫・「軽井沢愛の推理日記」G books「新幹線軽井沢駅の殺人」ジョイ・ノベルス
二階堂黎人/「軽井沢マジック」徳間文庫
嵯峨島 昭/「軽井沢夫人」光文社文庫
吉村 達也/「旧軽井沢R邸の殺人」光文社文庫
有栖川有栖/「46番目の密室」講談社ノベルス
西村京太郎/「ヨコカル11.2キロの殺意」(『特急「にちりん」の殺意』内)光文社文庫
北村 薫/「街の灯」文藝春秋・「玻璃の天」文藝春秋「鷺と雪」文藝春秋(第141回直木賞受賞作品)
小池真理子/「恋」早川書房(第114回直木賞受賞作品)
宮本 輝/「避暑地の猫」講談社文庫
コナン・ドイル[延原謙 訳]/「シャーロック・ホームズ全集」月曜書房(のち新潮文庫)
※文中敬称略