軽井沢の庭に憩う

凍えるような空気がゆるみ、山や街に、わずかずつ色彩が戻ってくる軽井沢の春。コブシの白い花を先駆けに、桃や桜のつぼみがほころび始め、地面にも芽吹きの気配が感じられます。こんなシーズンに出かけたいのは、自然の変化を身体で感じられる花の庭、草木の庭。広大なナチュラルガーデンやローズガーデン、アートと溶け合う美術館の庭など、自然豊かな軽井沢には、魅力的な庭園が点在し、浅い春にも花々の息吹を感じさせてくれます。

 

軽井沢の庭園

水辺を彩るバラたちの競演
イングリッシュローズ、オールドローズを中心に、見事な庭園デザインを堪能できるのが『軽井沢レイクガーデン』。湖を中心に5つのガーデンエリアがレイアウトされ、水辺を散策しながら、花たちの競演を楽しめます。バラに先駆けて4月・5月の庭を彩るのは、こぼれんばかりの枝垂れ桜や凛と立つ日本水仙。トピアリーを飾る6月のクレマチスも見事です。
バラの1番花が咲きだす6月は、ガーデンのトップシーズンの始まりでもあります。宿根草を中心としたボーダーガーデンやシンメトリーにデザインされたラビリンスガーデン、さまざまな虫や鳥が集うウッドランドなど、ひと足ごとに表情を変える庭園風景は、訪れる人を惹きつけてやみません。
水辺に多くの美術館や歴史的建造物を配した軽井沢タリアセンも、美しいバラ風景を楽しめる場所です。塩沢湖西南岸には約180種1800株のバラを植えた『イングリッシュローズ・ガーデン』があり、初夏から秋バラが盛りとなる9月まで、艶やかかつ軽井沢の庭に憩う上品な色と香りが一面に広がります。紫色の〝ラプソディー・イン・ブルー〞、大きなロゼット咲きの〝マサコ〞など、珍しい品種を見られるのも魅力です。

 

野趣にあふれるナチュラルガーデン
軽井沢の原風景を思わせる素朴かつダイナミックな景観を生んでいるのは、ムーゼの森に広がる『ピクチャレスクガーデン』です。イギリス出身の若きガーデナー、ポール・スミザー氏が設計したガーデンには、木々や低層植物が緑の陰影を連ね、ところどころに宿根草が可憐な花色を添えて、深い森の中を歩いているような心地にさせてくれます。
点在する美術館などを巡りながら、風に揺れるカヤの葉ずれの音を楽しみ、ギボウシやシダの葉に落ちる木漏れ日を追いかけつつ歩く…。物語の世界がそのまま立ち現われたような美しい庭は、今シーズンさらに整備され、いっそう深く、自然の息吹に満ちた変化を遂げています。

 

美術館の庭を鑑賞する楽しみ
庭園とアートを同時に楽しめる場所はほかにも多くあります。せせらぎに沿って回遊するセゾン現代美術館の庭園は、彫刻家・若林奮氏のプランニングによるもの。ゆるやかに傾斜する庭には、自然の角度を計算して若林氏の彫刻作品が点在し、遊歩道や鉄の橋、植栽に至るまで、ひとつの緻密な芸術作品として鑑賞することができます。
文化学院の創設者・西村伊作が設計したルヴァン美術館は、英国のコテージのような建物と芝生の庭のコントラストが印象的。野草も野にあるままに置くという庭は、自然で独自な人格を育む文化学院の教育理念をそのまま表しているようです。

 

歴史と自然に彩られた大らかな庭
レストランやカフェのガーデンテラスで、さりげなく植えられた珍しい山野草に出会ったり、巣箱に集う野鳥の姿を観察したりできるのも軽井沢ならでは。それぞれ趣向を凝らされた庭にオーナーの心配りを感じるのは、カフェタイムのちょっとした楽しみです。
花あり、木陰あり、水辺あり。いわば街全体が大きなガーデンのような軽井沢。何度訪れても飽きることがない表情豊かなこの庭を、このシーズンはどこから歩いてみましょうか。

 

[取材協力]軽井沢レイクガーデン/軽井沢タリアセン/ムーゼの森/㈶セゾン現代美術館