森の仲間たち ― 山里の小さな親善大使

雪の気配がやわらぎ、木々がふっくらと芽吹き始める春。厳しい冬を耐えてきた森の動物たちにとっては待ちに待った季節の到来です。中でも冬眠しないで細々と木の芽などを食いつないでいたウサギやリスたちは、緑の萌え始めた山々にホッとひと息つくことでしょう。やがて、かわいい赤ちゃんたちも巣から外界へと顔を出す時期。そして南の国で冬を越していた小鳥たちが少しずつ姿を見せ始めると、森は一気ににぎやかになってきます。

森の仲間たち
 
森のかわいい働き者たち
3月、まだ冬の気配が残る森に、忙しく立ち働いているのは、ネズミやリスたち。冬眠をしないアカネズミやニホンリスは、毎日のように食べ物を探してはチョロチョロと動き回ります。「貯食」といい、見つけた木の実などを埋めて蓄えておく習性があるので、秋の間にひたすら貯めた食糧を掘り返しているのかもしれません。でもよく見てみると…。埋めた場所を忘れてしまって、右往左往しているネズミも。ドングリや栗が新たな場所に芽吹くことができるのは、実はこんなうっかり屋さんのおかげです。
ニホンリスは暖かくなると赤茶色の夏毛に生え換わりますが、4月頃まではフサフサの長い耳当てを着けたような、灰色の冬毛を見ることができます。ほとんどの哺乳類が夜に出歩く中、日中動き回るリスは比較的見つけやすい動物でしょう。庭や窓辺に設けられた餌台でせっせと木の実をかじる姿は、眺めていて飽きないものです。かわいい姿に見とれていると、東南アジアから渡ってきたオオルリやキビタキが、鮮やかな羽色を見せてくれることもあります。

 
子育てシーズン―お母さんは大変!
そして春は、子育ての季節。木のウロなどに巣を作るムササビは、4月に出産時期を迎え、居心地の良いマイホームで赤ちゃんを育てます。時にはかわいい子どもたちが、好奇心に駆られて巣穴から顔を覗かせることも。緑が濃くなる夏の始めの宵には、お母さんのあとをついて木から木へと飛ぶ練習が繰り返されます。ちなみにムササビはメスだけが子育ての担当。天敵から子どもたちを守ったり、飛び方を教えたりするのも、すべて母親の役目です。軽井沢野鳥の森のピッキオビジターセンターでは、巣箱に設置したカメラでムササビの子育ての様子を見ることができますが、寝ている間に子どもたちにおなかの上で騒がれたり、巣穴を狙うカラスと闘ったり、子どもが独り立ちするまで約半年の間、どこか人間にも似たお母さんの苦労がひしひしと伝わってきます。
 
五感を澄ませて息吹を感じる
長野県下はどこも山が近く、自然が豊富な土地柄ですが、特に軽井沢は中心部まで緑が多く残されていることもあり、動物たちとの距離が近い場所です。ほんの少し気をつけるだけで、あちらこちらに彼らの気配を感じることができます。
たとえばイタチやテン。彼らはフンをすることでナワバリのアピールをするため、時には別荘地の道脇に細長い落し物を見ることもあります。キツネは同じくナワバリアピールで強い臭いを残します。動物園の檻のような濃い動物臭をかぐことがあれば、そこは彼らの散歩道かもしれません。警戒心の強い野生動物でも、こうした気づきやすいサインからリアルな生活を読み取ることもできるのです。雪が残る季節であれば足跡を追うのも楽しいでしょう。タヌキやカモシカが餌を求めて歩き回った痕、モデルのように気取ったキツネの歩き方、天敵をまこうとしたノウサギの大ジャンプ。残雪の上の小さなくぼみから、彼らの生き生きとした姿が浮かび上がってきます。
この地ではクマやイノシシたちも里近くまで下りてきます。サルはかつて碓氷峠の向こう、群馬県側にしか生息していませんでしたが、近年は分かれた群れが町中で見られるようにもなりました。彼らと共存するためには、人間側がどう距離をとるかということも課題になってきます。けれども、耳を澄まし、目をこらし、動物たちの生活にそっと心を寄せることができれば、多くの生命に囲まれた、いっそう豊かな生活を送ることが可能なのです。
 
取材・写真協力)ピッキオ